【お題99】みずみずしい
2008-04-21


「みずみずしい」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「みずみずしい」ordered by オネエ-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ ヒットメーカー

「社長」戸口のところで声がした。「社長!」
「ん? あ!」まだその呼ばれ方に慣れていないのでなかなか反応できない。「何?」
「キマイラドリンクの社長がお見えです」
「え? キマイラの? 柏社長が?」社長が直々来るとは何ごとだろう。アポイントもなしに。何か問題でもあったんだろうか。「なに。どんな様子?」
「どんな様子、ですか?」
 先週アシスタントで入ったばかりの子に、そんなニュアンスを聞いてもわかるわけがない。
「ああ、いや、いいんだ。すぐ行く。会議室にお通しして」
 この数年、キマイラドリンクのキャンペーンを一手に引き受けるようになって、あわてて構えた事務所が年々拡張して、以前はデザイナーの仲間と2人で小さなマンションの1室を借りてのんびり細々とやっていたのが、いまや社員は20人に増え、とうとう会議室まで持つようになった。人はサクセスストーリーと言うが、内情はそんなものではない。

「柏社長、これはどうも。わざわざお越しいただいて」
「いやいや、お忙しいところすんませんな。長居はしませんから」
「まあ、そう、おっしゃらず」特に怒っているということではなさそうだ。「しかし社長直々と言うことは何か大きなお話でしょうか」
「大きな話?」キマイラドリンクの社長が一瞬遠くを見る目つきになって、またおれを見る。「大きいと言えなくもないが、どちらかというと雑談です」
 はあ? 雑談? こっちはおたくの次のキャンペーンのプレゼンで追いまくられているのに?
「雑談、いいっすねえ」こういう心にもないことを言うようになってしまった。「仕事とは関係なく?」
 その時アシスタントがノックをして、お盆にキマイラのペットボトルとグラスを乗せて入ってきた。すると柏社長は思いがけない早さで言った。
「ああそれはいりません。ちょっと飲み過ぎなのでね。普通に入れたお茶があればお願いします」
 きょとんとしているアシスタントに、あわてておれがフォローする。
「熱いお茶、入れてきて。水野におれがそう言ってたって言えばわかるから」

 熱いお茶を一口すすって柏社長が言う。
「先日ね、聞いてしまったんですよ」
「は」
「部下に連れられましてね、おいしいカクテルを飲ませるからって」
「は」イヤな予感がした。「いいですね」
「火星の石をかざってる」
「MARS STONE」予感的中。「わたしも時々いきます」
「はい」柏社長は微妙な表情でおれを見つめた。「その時、いらっしゃいました」
「え゛?」すごくイヤな予感。「い、いつ。声をかけてくださればよかったのに」
「ちょうどマスター相手にすごく話しておられたので」
 うわあ。まずいよ。それはまずいよ。
「そもそもあのプレゼンは通すつもりがなかったって」
 あいたー! 新しいカクテル「王様の耳」を飲んだときだ。キマイラドリンクの製品のネーミングの裏話を洗いざらいしゃべってしまったのを聞かれてしまったんだ!


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