◇ 来[4]
2009-08-22


計画は大成功だった。村人はすぐにイワノフと仲良くなった。計画外だったのはイワノフは思っていたより力が強く、おれはしばらく寝込んでしまったことだが、それでも物事が思った通りに進んで大満足だった。でもやがて気がついた。このままおれとイワノフが今まで通り付き合っていたら、村人は疑い始めるに違いない。そこでおれは怪我が治るとすぐに、痛い腰をさすりながら棲み家を引き払った。山を越え、谷を越え、はるか遠くを目指し、ここに来た。

 悪い噂は早いもので、方々でおれは恐ろしい青い悪魔扱いされ、何度も山狩りに合いそうになった。だから場所を変え、気配を隠し、用心して山の奥深くを選んで棲んだ。ここを見つけるのに冬を越し、一年近く立った。いまはこうして横穴を泥で塗り固め、外からはただの崖にしか見えないような場所に住んでいる。村人に気づかれさえしなければいいのだ。野生の豚を狩り、鹿をつかまえ、野草と一緒にぐつぐつ煮込めばそれでいい。たまにはイワノフの料理が恋しくなるが、おれはもともと料理の味なんか気にしない。

 でもこうしてイワノフのお茶の葉が見つかったのは素直に嬉しい。おれは外に誰もいないのを確かめて、火を起こし、湯を沸かした。そうしてイワノフがやっていたように、お茶の葉を湯に放り込み、しばらく時間を置いてから器にあけて飲んでみた。味はひどく薄かったが、あのころ飲んだのと同じような味がした。お茶の葉の包みから紙がのぞいていたので手に取ると、ゲオルク、時間を置くと味が落ちるので早く飲んでくれ。賞味期限は1カ月以内だ、と書いてあった。まめな男だ。そう思ったら急にイワノフに会いたくなり、おれは大声を上げて泣き出していた。

(「期限」ordered by tom-leo-zero-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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