2008-02-08
「依頼主の趣味なんだろうが、この絵の巧みさを見ると」
「絵師も相当に好きだったんだろうな」
そう言いながら最後の一枚にたどりつく。他の絵で文字が添えられていたあたりに、墨塗りで「●●●」と伏せ字になっているのがいきなり目に飛び込む。しかしよく見るとこれは最初からそのように刷られたもので、後に塗りつぶされたわけではない。
なるほど、歓喜に身を震わせている絵の中の男女が互いに手を伸ばし触れているのは、普通なら思いつきもしない意想外な部分だ。そこに描かれた独創的な仕業に言葉を失っているとキミタケがささやく。
「どうだ斬新だろう。試してみたくなるだろう?」
「ああ」不覚にも返事の声もかすれてしまう。「いますぐにでもな」
外は寒いのに額が汗ばむのがわかる。
(「ももくる春」ordered by 巻巻-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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