【お題40】目覚まし時計
2008-01-05


「目覚まし時計」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「目覚まし時計」ordered by カリン-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ One micro morning

 拾ってきた時にあんまり小さくて、うっかりすると踏みつけてしまいそうなくらい小さいものだから、そのことをしっかり意識しようと思って即座に「まいくろ」と名前をつけた。雄か雌かもわからないから適当にマイクとかマイキーとかマイくんとか呼んでいたら、後にお腹が大きくなって雌だとわかって困ったが、世の中には猫に「いぬ」とか「くま」とか「さわら」とか名前をつける人がいることを思えば、まだ名前であるだけマシだと思うことにした。

 雄か雌かなどということは問題ではなかった。「まいくろ」はマイクロどころかビッグ、ラージ、マックス、マキシマムとでも呼ぶべき急成長を遂げ、日に日に巨大になっていった。外猫として自由に歩き回り、去勢する前はずいぶんケガも多かった。一度は子どもを生ませてやったが、その子どもたちがいわばマイクロ・タイフーンとして我が家を壊滅状態にしてしまったので、去勢に踏み切ったのだ。

 その後運動量が減ったせいもあってますます「まいくろ」は巨大化を続け、いくぶん性格が穏やかになったかに見えたが、自己主張の強さは全く変わらず、朝は4時半頃から腹が減ったとアピールし、ざらざらの紙ヤスリみたいな舌で目のまわりをなめ、こちらが起きないと顔の上に座り込み、放屁なのがゲップなのかすさまじい匂いを放ち、おかげでこちらは飛び起きるようにして叩き起こされた。旺盛な食欲と徹底した休養によって「まいくろ」は、いわば“時に移動もすることもあるカーペット”のような姿になり、重力に負けて水平二次元方向に広がり始めた。

 ある日、庭の塀に飛び上がろうとして全く及ばず、塀の真ん中あたりに激突している「まいくろ」を目撃した。恨めしそうにこちらをにらむ「まいくろ」を見て笑いが止まらなくなったものの、これは何とかしなければならないと思った。でも何とかする前に「まいくろ」は家の前で車にひかれて死んでしまった。普通の猫なら避けられたところを重力につなぎ止められ逃げ切れなかったのだと思う。猫好きの友人たちがものすごく心配してくれて、とても気を使ってもらって慰められたが、泣くこともできなかったし、怒り狂うこともできなかったし、なんだかひどく冷静に「もう少し早くダイエットに取り組んでおくべきだった」ということばかり考えて過ごしていた。

 今朝まだ明け切らぬ時刻にふと「まいくろ」を感じた。ざらざらの舌で頬をなめられたと思ったのだ。目を開き、手を伸ばし、そこに「まいくろ」がいないことに気づいた。それから大声で誰かが吼えているのでびっくりして完全に目を覚ました。泣いているのは自分だった。目覚まし時計を返して。目覚まし時計を返して。そう、自分の声は吠え続けていた。

(「目覚まし時計」ordered by カリン-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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