【お題38】骨董女
2008-01-03


じゃあ白状しますがね。さっきの話、なんで彼女の家の中をよく知っているのかって話。実はね。以前にその、お付き合いしていたことがあるんですよ。冗談でしょうって? いやいやお気持ちはわかります。それはね、あたし自身がそう思っていましたからね。親子の年齢差ですし、それにあたしの方はもう……。ああ、こういうこと、本当は言わない方がいいかも知れないんですがね、お客さんだから話してしまいますが、あたしはもう、そういうこととは縁がないと思っていましたからね。それこそ何年も、いや家内に先立たれてから二十年近くも、その、女性にその、触れることもなかったわけですから。はい。しかし忘れていないもんですね。お付き合いしている間はすっかり若返ったような感じでしたな。心も、身体も。体の向きとか道具とかそれこそ場所とか、あたしどもの若い頃には考えられないようなことを……ああ、これはさすがに言い過ぎですね。失礼しました。

 ただ話はこれだけじゃないんです。さっき一緒のテーブルにいた男性、一緒に出ていったでしょう? ご覧になりました? そう、年輩の方です。わたしより二つ三つ上じゃないかな。いまはあちら様とお付き合いされているんです。信じられないって? いやいや。半年くらい前まではもう少し若いけど、やはり年輩の方とお付き合いされていたんですよ。おわかりになりましたか? そう。彼女と付き合うことのできたわたしたちがね、自嘲的に言い始めたんですよ。こんな骨董品みたいなものを愛してくれるとは、ってね。それで骨董女です。

 どうです? ショックでしたか? やっぱり聞かない方がよかったですか? いやいや失礼しました。お客さんがあんまり熱心なんでちょっとからかってみたくなってね。え? 冗談ですよ冗談。決まっているじゃないですか。さっきお客さん、正解をおっしゃったんです。そう。名前のもじり。本当はね、トウコさんっておっしゃるんですよ、あの方。それがひっくり返ってコットウさん。さっきの男性は一緒にジャズバンドをやっているベーシストの方です。付き合っているかどうかまでは知りませんがね。はっはっは。半信半疑って顔をしてますね。おわびに一杯おごらせてください。アンティーク・ウーマンって名前のカクテルです。たったいま発明しました。

(「骨董女」ordered by futo-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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