【お題23】サイコロ
2007-12-19


「サイコロ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「サイコロ」ordered by miho-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ マジックナンバー7

「極めて論理的です」女探偵は人差し指をぴしりと立てると、言い放った。「児玉さん。曜日はいくつありますか?」
「曜日?」
「そう。曜日です。いくつありますか?」
「いくつって。7つってこと?」
「そうです」勢いよくうなずくと女探偵はせかせかと歩き回り始めた。「そう、7つです」

 私は椅子にかけたまま彼女を目で追い、考える。身のこなしはバレリーナを思わせる。細身ながら鍛え抜かれて優雅で、無駄がない。からだにぴたりと合った黒いスーツはダンサーの練習着のようにも見える。いまにも華麗なステップを見せてくれそうだ。

「7つ。それがなにか」
「マジックナンバーです」
「マジックナンバー」私は苦い薬を飲み込むような気分でその言葉を口にした。「7が? マジックナンバーなんですか?」
「そのとおり!」
「ラッキーナンバーじゃなくて?」
「マジックナンバ〓ですよ児玉さん!」女探偵は近づいてきてぐっと顔を寄せてきた。そして私の顔にわざと息を吹きかけるようにして言う。「あなたはご存じのはずです。どうしてこれがマジックナンバーなのかを」

「わかりませんよ」美しい女の顔が至近距離に近づいてきたので内心動揺しつつ、答えるべきことはきちんと答える。話が飛躍しすぎだからだ。「わかるわけないじゃないですか」
「わかるわけないとおっしゃる。あなたが!」ためこんだ笑みを顎のあたりに漂わせながら女探偵は両手の指先を合わせる。透き通るように白く細長い形のいい指だ。その指先を顎の下に当てて話し続ける。まったく見飽きることのない女性だ。「記憶の名人のあなたが」
「どなたかとお間違えでしょう」
「いいえ。著書も拝読しました。ああなるほど」再び指をぴんと立て、女探偵は間をおく。「ご著書ではペンネームを使っておられるし、顔写真もない。でもだから違うと言われても困る。そういう子供だましはナシです」

 面白い女だ。私は興味が湧いてきた。まるで『古畑任三郎』か何かのキャラクターを演じているような話し方だ。これは本人の地なのか、それとも演技をひっぺがすと別な人格が顔を出すのか。
「人間が1度に記憶できるチャンクは7±2というんでしたっけ?」女探偵は私の考えなどお構いなしに続ける。「マジックナンバーは7というわけです。完璧な数字。世界を動かす原理」

「だから何なんです?」女探偵をしばらく眺めていたい気分になってきたのでもっと会話を続けることにする。「話がそこから進んでいませんよ」
「はい。問題はそこなんです」再び顔を近づけてきて女探偵が言う。ミント煙草を吸っているらしい。「あなたは発見した。世界を動かす原理を。完璧な装置を」
「それがどうしました?」
「この装置が最近機能していないから世界は前に進まなくなった」
「その装置が世界を前に進ませている?」
「そう。正確に言うと次の選択肢を選んでくれるのです」
「選択肢? ロールプレイングゲームのように?」
「そう。ただし人間界の選択肢より一つ多い選択肢の中から」
「何なんですそれは」
「正七面体の完全物質」
「そんな立体は存在しない」

「そんな立体は存在しない」女探偵は復唱する。「では犯行現場に残されていたこれは何でしょう?」
 そう言うとスーツの右ポケットに無造作に突っ込んでいた白いハンカチを取り出す。そんなはずはない。これはフェイントだ。私の動揺を引き起こそうとしているのだ。

「どうしました?」
「何を言っているのかさっぱりわかりませんよ」

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